豊胸シリコンバッグが回収⁉︎ リコールの理由を乳腺専門医が解説
こんにちは。医師の野原有起です。
「豊胸シリコンバッグが回収⁉︎」と聞くと、
「今自分に入っているバッグは大丈夫なの?」「回収対象なら、すぐに取り出した方がいい?」
と不安になる方もいると思います。
実際に、豊胸用シリコンバッグは過去に大規模な回収や販売停止が実際に行われています。
代表的なものとして、
PIP製インプラント:製造・品質の問題(PIP社製造のROFILのM-Implantsも含む)
Allergan BIOCELL:BIA-ALCLとの関連
と、バッグのメーカーによって回収理由がまったく異なります。
結論から言うと、回収対象だった製品が体内に入っているからといって、全員が直ちに抜去しなければならないわけでもありません。
では、今回は、過去に問題となった代表的な乳房インプラントを簡潔に整理します。

目次
どんなシリコンバッグが回収された?
代表的な事例をまとめると、次のようになります。
メーカー | 対象製品 | 時期 | 回収範囲 | 主な理由 |
AllerganMcGhanInamed | BIOCELL textured implant及びtissue expander | 2019年7月 | 世界的自主回収 | BIA-ALCLリスク低減・予防措置として |
PIPPoly Implant Prothèse | PIP製シリコンバッグ全モデル・全ロット | 2010年3月 | 各国規制当局で販売停止・回収 | 承認外シリコーンゲル使用 品質管理不正 |
Rofil M-Implants | PIP製シリコンバッグ全モデル・全ロット | 2010年以降 | PIP製造品として各国で回収対象 | PIP由来製品として同様の処置 |
TiBREEZE | PIP製シリコンバッグ全モデル・全ロット | 2010年以降 | PIP製造品として各国で回収対象 | PIP由来製品として同様の処置 |
「シリコンバッグのリコール」と一言で表現されることがありますが、品質不良によるものと、長期的な疾患リスクによるものでは、回収の意味あいが全く違います。
PIP製シリコンバッグ―承認外のシリコーンゲルが使われていた
世界的に大きな問題になったのが、フランスの**Poly Implant Prothèse(PIP)**社が製造したものです。
2010年3月、フランス当局はPIP社の工場調査を行った際に、豊胸用シリコンバッグが承認された組成とは異なる医療用ではない工業用シリコーンゲルが使用されていたことを確認し、販売・流通・輸出・使用を停止しました。英国MHRAもフランス同様に直後から使用中止を勧告しています。(GOV.UK)
その後の英国政府による大規模な検証では、PIP製品について他社製のシリコンバッグより破損しやすいことが確認されました。
一方で、詳細な毒性検査ではPIPのゲル自体について発がん性や長期的な全身毒性を示す証拠は確認されていません。問題の中心は、承認された製造方法から逸脱していたことと、製品としての機械的強度不足・破損率の高さでした。(GOV.UK)
そしてROFIL MedicalのM-ImplantsやTiBREEZEも、名前だけを見るとPIPととは別製品のように思えますが、製造元が同じです。
Allergan製BIOCELLはもっと深刻
もう一つ有名なのが、Allergan社のBIOCELL製品です。
2019年7月、FDAの要請を受けてアラガン社は、BIOCELLというザラザラした表面を持つシリコンバッグとティッシュ・エキスパンダーを世界的に自主回収としました。
こちらはPIPとは異なり、問題となったのは、BIA-ALCL(乳房インプラント関連未分化大細胞型リンパ腫)との関連です。(一般社団法人 日本形成外科学会 JSPRS)
日本でもBIOCELL表面を使用したアラガン社製インプラントが自主回収・販売停止になりました。
BIA-ALCLそのものについては別の記事で詳しく解説しています。
国別で回収されたシリコンバッグもある
全世界的に回収が実施されているバッグもありますが、国別に回収が指示されているものも存在します。一部がクリニックを通じて個人輸入という形で、日本に入ってきているパターンも存在しているので、注意が必要です。
メーカー | 対象製品 | 時期 | 回収範囲 | 主な理由 |
Arion | Monobloc Silicone SoftOne | 2019年4月 | フランス国内 | BIA-ALCLリスク低減・予防措置として |
Sebbin | LSA textured | 2019年4月 | フランス国内 オーストラリア国内 | BIA-ALCLリスク低減・予防処置として |
Euro silicone | ・MATRIX TM F1-F3 / M1-M3 / L1-L3 ・Cristaline ・Paragel系 | 2019年4月 | フランス国内 オーストラリア国内 | BIA-ALCLリスク低減・予防措置として |
Polytech | POLYtxt / MicrothaneSublime Line・DiagonGel / 4Two | 2019年4月 | フランス国内 オーストラリア国内 | BIA-ALCLリスク低減・予防措置として |
Nagor | GFX / IMPLEO / COGEL 等のテクスチャード製品群 | 2019年4月 | フランス国内 オーストラリア国内 | BIA-ALCLリスク低減・予防措置として |
Hansmed | BellaGel | 2020年11月 | 韓国国内の販売停止・回収。 | 承認事項と異なる原材料5種を使用して製造・流通 |
回収されたバッグが入っていたら、すぐ抜去する?
例えばAllergan BIOCELLについて米国FDAは、症状のない患者さんに一律の予防的抜去を推奨していません。 日本形成外科学会の情報でも、2019年に国内のマクロテクスチャード製品が自主回収・販売停止となった経緯が説明されています。(一般社団法人 日本形成外科学会 JSPRS)
PIPについても英国では最終的に、全員へ一律の摘出を求めるのではなく、患者ごとに症状、破損の有無、不安、再手術のリスクなどを考慮して相談する方針が示されました。(GOV.UK)
つまり、回収対象だったから直ちに抜去は推奨されていません。
一方で、
片側だけ急に腫れてきた
胸の形が変わった
硬くなった
痛みが出た
しこりを触れる
などの変化があれば、原因を確認し、場合によっては抜去する必要があります。
自分に入っているバッグが分からない場合は?
まず確認してほしいのが手術時にお渡ししたインプラントカードです。
そこには
メーカー
製品名
サイズ
シリアル番号
などが記載されています。
カードがない場合は、手術を受けた医療機関に問い合わせて、手術記録が残っていないか確認します。特に10年以上前の豊胸や海外で受けた豊胸の場合には、自分で記録を取っておくことが重要になります。
まとめ
今回は、「豊胸シリコンバッグが回収⁉︎」をテーマにブログを書きました。
回収対象だった製品が入っているからといって、それだけで直ちに抜去が必要とは限りません。
まずは、自分に入っているシリコンバッグのメーカーや製品名を確認し、手術から3年経過しているのなら、現在のバッグや乳房の状態の確認のためにエコー検査を受けてみることも大切です。バッグを入れて終わりではなく、その後の乳房とインプラントを長期的にフォローするところまでが大切だと考えています。
他院で入れたシリコンバッグについてもエコー検査はしていますので、是非、ご相談いただければ幸いです。
執筆・医学監修:野原有起
医学博士・日本乳癌学会乳腺専門医・日本外科学会外科専門医
参考資料
French AFSSAPS / UK Department of Health:PIP breast implants safety investigation and final expert report (GOV.UK)
UK Department of Health:Final expert report on PIP breast implants (GOV.UK)
Scientific Committee on Emerging and Newly Identified Health Risks:Safety of PIP Silicone Breast Implants (ANSM)
U.S. FDA:Allergan BIOCELL textured breast implant recall
日本形成外科学会:BIA-ALCLの要点 (一般社団法人 日本形成外科学会 JSPRS)







